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2020/11/16

「技術イノベーションと国際連携・協調をめぐる課題」【上・プレゼン編】(中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会)

 中曽根平和研究所では標題につき、伊藤伸研究委員(東京農工大学大学院工学府産業技術専攻教授)、森直子研究委員(機械振興協会経済研究所研究副主幹)、ならびに、吉田悦子研究委員(大阪大学知的基盤総合センター特任研究員)との意見交換を、以下の通り開催しました。

 【上・プレゼン編】【下・丁々発止編】の2回に分けて、概要をお届けします。なおスクリプトはこちら、伊藤委員のプレゼンテーション資料はこちら、森委員のプレゼンテーション資料はこちら、吉田委員のプレゼンテーション資料はこちらをご覧ください。

 

1 プレゼンテーション「技術流出をめぐる国際的産学連携の現状と問題意識」(伊藤委員)

 

■大学における秘密情報管理の重要性増大、バランスの取れた工夫の必要性

大学からの技術流出に関する最近の動向としては、統合イノベーション戦略2020(7月17日閣議決定)に、技術流出防止対策に関する関係府省庁の連携した取組み、留学生・研究者等の受入れの審査強化、研究資金における外国からの資金受入れに関する情報開示などが盛り込まれたことが大きな動きだ。
産(官)学連携が年々盛んになってくるなかで、大学における秘密情報管理の重要性も増している。もともと大学は研究成果を公表することが使命であったが、産学連携のプロセスにおいては、企業側の秘密情報を受け取ることがある。共同発明も生じるため、こうした情報の管理における「物理的な隔離」と一方で「(招聘研究者・留学生含めた)信頼関係の維持」といった、バランスの取れた工夫の必要性が高まっている、ということだ。

 

■大学の国際化・研究の自由維持と、安全保障貿易管理の両立

大学の国際化(研究者間の国際連携増加)に伴って、外国為替及び外国貿易法(外為法)対応をはじめとした輸出管理(安全保障貿易管理)の観点からの研究リソース管理の必然性も高まっている。2015年からの名古屋大学・三重大学でのシステム的な取り組みは、国内大学の1つのモデルとなりつつある。
大学は、教育・研究がミッションであることから、国境を越えた人材の流動性(それらに伴う技術・研究の流動性)が高くなりやすい反面、それに対応した組織の十分な管理体制を備えてきたところは限られる。研究の自由の維持、法令順守、および評判リスク回避の観点からも、この強化が急務である。

 

■研究・知的財産に関する、国防・国益的視点を巡る、米日の差異 そして 日本の打ち手

米国に於いては、2018年に制定された国防権限法の影響等もあり、大学において、中国企業との産学連携などの動きを見直す事例が後を絶たない。
なお米日における、知的財産と国益とを巡る、法律上の差異として、米国法には、安全保障上の機微技術については公開を行わない「秘密特許制度」が導入されているのに対し、日本法では同様の規定がないことが挙げられる。
現在は、産業競争力上と安全保障上の問題が同時に生じており、イノベーション促進と技術流出防止とを両立させる視点が必要だ。学問の自由の確保、留学生の不当な差別の防止策も勿論不可欠だが、状況は絶えず変化しており、外国との連携研究(大学から見れば技術シーズの提供)のあるべき姿や方向感が見えにくくなっている。そうしたなか、日本においては、専門知識・スキルを有する研究支援部門や産学連携部門によるサポート体制がますます重要な役割を果たす。

 

 

2 プレゼンテーション「複雑化する国際標準化戦略 国際競争と国際協調の重層化」(森委員)

 

■技術革新がもたらす、協調領域と競争領域の重層化

国際標準化については、19世紀半ばから工業品分野・通信分野などをはじめとして行われてきた。「競争領域」たる知的財産・特許の役割とあいまって、「協調領域」としての地位を築きながら、一方で、この国際標準化の主導権プロセス自体が「競争領域」になることもあり、また異分野間等で複数立ちあがる国際標準化団体の必要に応じての連携などをも通じながら、今に至っている。
そうしたなか、こと、現在の国際標準化競争においては、IoT(Internet of Things)化の進行とも相まって、「協調領域と競争領域の重層化」が顕著になってきている。

 

■米・欧の動き ~「システム・イン・システム」の発想を重視~

米国では、GAFA等デジタルプラットフォーマーの活動もさることながら、産業政策としての「Team of Rivals Principles」が存在する。ここでは、主要企業が相互接続性の確保などを目的として、重層的な技術・システムの俯瞰図(システム・イン・システムの発想)を共有して産業横断的に協調すべき分野を議論し、システム連携のためのアーキテクチャを共同設計するなど、IoT推進及びデファクトスタンダード化推進に向けた協力体制を構築している。
欧州では、産業・企業の枠を超えた共通課題・社会的課題の解決のために、目指すべきシステムの基本構造を参照アーキテクチャとして定義し、システム内各層において既存および新規の標準を活用すべき領域を規定している(ドイツのIndustrie4.0に代表される、こちらもシステム・イン・システムの発想)。

 

■中国の動き ~国家世界戦略としての「中国標準2035」~、そして、日本の課題

中国では、これまでの「中国製造2025」から一歩進んだ「中国標準2035」を制定中だ。こちらは米欧とは異なり「国家プロジェクト」として、国際競争力および国際影響力強化における標準の活用を明確化したものだ。「後発者」として国際標準化活動、国際標準の国家としての利用の仕方をドイツなどから学習し、国際標準化機関での幹事引受け、委員会設置提案へ資金と人材を投入している。いわば、「技術覇権獲得戦略」が前面に出てきているものといってよいだろう。特許申請も国家が強力に奨励している一方で、国際標準を自国に優位に推進しようとすることで、国際協調領域をも自国のアドバンテージ化しようという試みだ。
これら各国と比して、日本は、Society5.0をみていても、国際標準化へのカギとなる、協調領域と競争領域の議論がなかなか発展しない。目標設定は曖昧にも見え、それらを貫くアーキテクチャの設計も見えてこない。

 

 

3 プレゼンテーション「デジタルトランスフォーメーションと知的財産保護:発明者概念について」(吉田委員)

 

■AI(人工知能)をめぐる知的財産ルール・論点

AI(人工知能)をめぐる特許出願、知的財産等ルール整備は、日本・欧州とも、2016年ごろから盛んな度合いを増してきた。特にルール整備については、国際調和という面で欧州の動向が非常に大きく、特にガイドラインそして倫理の双方に目配りをして包括的にリードしていることから、日本としても気にしながら動いているところと捉えている。
一方で、AIは、様々な情報を記憶・演算・生成できるが、そこでは意味を考えて答えを出しているわけではない。従って、現行の知的財産法では、AIは権利主体の対象ではない。あくまでも、それをツールとして「技術的思想の創作」として「発明」を行う「人間」が、権利主体だ。
昨年2019年、欧州や米国において、AI・DABUSによる特許出願が大きな反響を呼び、世界知的所有権機関(WIPO)等では、AIを発明者として認めるかどうかの議論がされている。

 

■AIは発明する存在として認定されうるのか?

果たして今後、ビッグデータがより社会の各所で活用されていくような時代において、AIはツールに留まるのか。発明する存在として認定されうるのか?
現行法の下での、そのファーストステップたるポイントは、「発明におけるAIの関与要件の開示がなされること」ではないか。人間とAIの関与を整理し、発明の管理を明確にすることで、共同発明の考え方を再考する契機になりうる。また諸外国との調和にもつなげていく必要があるだろう。
日本においては、発明者についての法律上の明文規定はない。なお学説上は、「二段階説」という、着想提供と着想具体化とにわけて判断するもの、また、「特徴的部分説」という、当該発明特有の課題解決手段を基礎づける部分につき事実認定した上で、課題提示者・解決手段の考案者・課題解決の確認者を事実認定するものがある。一方、米国においては、特許法で「個人、または共同発明の場合は個人の集合体であって、発見の主題を発明若しくは発見した者」(100条(f))という規定があるが、上述のAI DABUSの発明者の地位をめぐる争いは、連邦地裁に係属中であるため、これとAIとの兼ね合いをどう考えていくか、が今後の議論および焦点になるのではないか。

以下【下・丁々発止編】に続く

 

4 日時等:令和2年10月26日(月)14:30-16:30 (ウェブ会議により実施) 

5 参加者: 中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会 研究委員、および中曽根平和研究所関係者 ほか

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