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2020/12/24

「技術を用いた国際的社会課題解決のこれから」【上・プレゼン編】(中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会)

中曽根平和研究所では標題につき、川崎達男研究委員(元・電気通信事業財団理事長)、バングラデシュから日本の大学への第一期国費留学生であるAhmed Ashir先生(九州大学准教授)、ならびに、島裕研究委員(中曽根平和研究所主任研究員)との意見交換を、以下の通り開催しました。

 【上・プレゼン編】【下・丁々発止編】の2回に分けて、概要をお届けします。なおスクリプトはこちら、川崎委員のプレゼンテーション資料はこちら、Ashir先生のプレゼンテーション資料はこちら、島委員のプレゼンテーション資料はこちらをご覧ください。

1 プレゼンテーション「社会課題解決とSDGs実現のためのICT/ソーシャル・ビジネス」(川崎委員)、「新興国における遠隔医療システム」(Ashir先生)

■ソーシャルビジネスを社会課題解決につなげていくこと(川崎委員)

本日発表の実践ケースは、バングラデシュにおける遠隔健康診断プロジェクトだ。これは元々理事長を務めていた電気通信普及財団の支援もあって、指導者育成、事業化(ソーシャルビジネスベンチャー創業)、そして関連する年次グローバルカンファレンス(2006年度ノーベル平和賞受賞モハマド・ユヌス博士も複数回参加)を進めてきているものだ。
本日ご議論いただきたい点は以下3点だ:①SDGsの実現、とりわけ、貧困問題および医療サービスへのアクセスといった社会課題解決のために、デジタル技術ベースのソーシャルビジネスをいかに活用するか、②新興国におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の社会課題解決・イノベーションへのインパクト、ならびに日本におけるインプリケーション・応用可能性 ③ソーシャルビジネスの可能性、そして乗り越えるべき課題。

■モバイルアプリケーションの拡がりが社会変革をリードする国・バングラデシュ(Ashir先生)

バングラデシュは、世界第8位の携帯電話大国だ。1.65億回線という規模は、日本よりも大きく、ほぼバングラデシュの人口と同数(つまり、1人1台)である。携帯電話回線の伸び、インターネットユーザの伸び、ソーシャルメディアユーザの伸びとも、年率10%程度であり、デジタルの成長ぶりは世界有数の国家といえよう。
更に高速ブロードバンドの展開・アップグレードは、携帯網が牽引し、人口の若さ、プリペイド型携帯の活用、決済手段のモバイル重視なども手伝い、携帯(モバイル)の活用が、国の活力のベースとなっているといっても差し支えない。
これらの状況は先進国とは大きく異なるが、逆に、携帯電話およびアプリケーションの急速な普及が先導することで、従来の社会課題を一気に解決するチャンスが到来している、ともいえる。

■バングラデシュの低所得者層をミクロ起業者層へ!(Ashir先生)

バングラデシュも、他の途上国と同様、最も下層(BOP)であるところの低所得者層が人口1.7億人弱の大半を占める。SDGsの達成に向けては、そうした低所得者層を「ミクロ起業家層」へと変革していくことが大切で、そのためには若者によるICTの活用は欠かせない武器だ。
バングラデシュは、こうしたBOP層を、マイクロファイナンスにより、コミュニティ(村)単位で、ミクロ起業家層へと変革してきた歴史がある。その嚆矢は、1980年代のグラミン銀行だ。そして90年代にはグラミンフォーン(公衆電話としての携帯電話)、2000年代にグラミン・シャクティ(家庭用太陽光パネルによるコミュニティ電力供給)が続いている。

■農村部の若い労働力を活用して10年の歳月を経た遠隔医療実証実験(Ashir先生)

2010年から始まった実証実験は、農村部における「ポータブル・ヘルス・クリニック」に特化したものだ。具体的には、日本の技術で主に作られた、センサー・試薬類・タブレットPCをセットした「Portable Health Clinic Box(GENKI Box)」を携帯して各農村に駐在・巡回する「ヘルスケアワーカー」の診断を患者が受け、ヘルスケアワーカーが直接対応可能な病気か、それとも、遠隔等で医者の診断・処方箋を必要とするような病気か、を見極めていくというものだ。
その担い手は、主に高卒の農村の女性だ。1年余りで政府の免許を取得し、2週間の研修を経たのちに「ヘルスケアワーカー起業者」として独立する。現在、拠点は54か所、ヘルスケアワーカーは150名に達し、1人当たりの平均年間収入は約100万円と推定されている。

■今後の展望~事業化へ~(Ashir先生)

医者の稼働削減や、医療ミス減少(医療技術の底上げ)といった効果ももたらしつつ、事業性確保が見えてきたこの実証実験の結果を経て、現在、「Social Tech Japan」という新会社の設立を準備中だ。今後10年で、この営みを無医村地区から都会(定点的拠点等を通じた工場等現場労働者などへの健康診断:バングラデシュは健康診断未受診率が9割超)、またバングラデシュ以外の他国へと広げ、世界一の遠隔医療会社になることを目指したいと思っている。
このなかで"Made In Japan"のブランドは、信頼や展開のうえで非常に重要だ。また学際的な営みでもあり、様々な技術・投資を必要とされるが、ミクロ起業者たちによって成り立つため、一気に大規模な展開にならない分、投資等リスクは抑えられると考えている。
また、こうした動きが、社会危機・社会課題解決のための研究開発者増大(とりわけ後に続く日本への留学生増大)につながることを願う。

2 プレゼンテーション「社会課題解決のための共創の方法論を考える」(島委員)

■現代は「国際的社会課題解決」の時代

今回のコロナ禍は、総じて、国連の定めたSDGs(持続可能な開発目標)の進行にネガティブなインパクトを与えている。今年のSDGs報告書では、世界の貧困者数が増加に転じているとみられることをはじめ、多くの懸念が示されている。
その他、都市連携での気候変動への取り組みや、自然災害の国際的な拡がりへの対処など、国際的課題解決を必要とするアジェンダは確実に増加しており、こうした状況は世界経済フォーラムの「The Global Risks Report」でも毎年取り上げられているとともに、こうした国際的社会課題解決に資するようなESG(環境・社会・ガバナンス)投資の動きも盛んになっている。
この国際的社会課題解決にあたっての、分野横断的なアプローチには、様々な試み・議論がなされている。例えば、「コレクティブ・インパクト」と呼ばれる、異なるセクターによる特定社会課題解決に向けた共創方法論提案、などだ。

■「オープンイノベーション2.0」の潮流

一つの組織等や技術に閉じることなく、様々な組織等の様々な要素技術をすりあわせていくことが、デジタル時代における新たな価値創造、そして国家競争力向上にはより重要だ。従って、それぞれの専門家が協力し合っていく基盤、および「全体構想・全体構造」や「強み・課題」に関する共通認識の整備が必要になる。
またそうした「新たな」オープンイノベーションたる「2.0」は、目的ではなく、プロセスだといえる。すなわち、社会的な共通課題の解決に向けて、多くの組織が連携して形作る「エコシステム(生態系)」により、その使い手たる市民・ユーザーが共創に参画し、そして「必要な技術開発、アイディア創出、事業活用の裾野拡大」に向けて、共同の場を設定・活用し、そこで計画から実装・検証までのサイクルを螺旋階段的に回しながら、協奏的にリードしくことが、大切となる。しかしながら、こうした環境づくりや経験値の積み重ねにおいて、日本に根強い縦割りの社会構造や企業風土はオープンイノベーションに必ずしも馴染みやすいとはいえないため、それを共同で乗り越えるために、目的の構想から注力していくことが必要だ。

■「共創の方法論」

共創の方法づくり・道筋づくりにおいて大切なものが3つあると感じている。①社会実装に向けたシステム、すなわち大きなシステムを構想し技術を実装する力。②それらを支える倫理や規範をどう設けるか、あるいはこうした「場の組織能力」や「エコシステム」をどうやって活かして連携のネットワークを作っていくか。③こうしたものを作り上げてさらに世界に対してこういうことで貢献できるよといった発信の工夫。
そうしたなかで、本日皆さんにお伺いしたい3つの問いは以下の通りだ:
1)わが国が社会課題解決のビジネス化において競争力を発揮する上で何が不足しているのか?
2)わが国が「オープンイノベーション2.0」を推進する上でのボトルネックは何か?どうすれば乗り越えられるのか?
3)社会課題解決に取り組む際のドクトリンは何か?(規範、ビジョン、功利性、経済性etc.)

以下【下・丁々発止編】に続く

3 日時等:令和2年11月18日(水)14:00-16:30 (ウェブ会議により実施) 

4 参加者: 中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会 研究委員、および中曽根平和研究所関係者 ほか


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