トップ  >  イベント・出版  >  「技術を用いた国際的社会課題解決のこれから」【下・丁々発止編】(中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会)

イベント・出版

イベント

2020/12/24

「技術を用いた国際的社会課題解決のこれから」【下・丁々発止編】(中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会)

中曽根平和研究所では標題につき、川崎達男研究委員(元・電気通信事業財団理事長)、バングラデシュ出身のAhmed Ashir先生(九州大学准教授)、ならびに、島裕研究委員(中曽根平和研究所主任研究員)との意見交換を、以下の通り開催しました。

 【上・プレゼン編】に続き、【下・丁々発止編】の2回に分けて、概要をお届けします。なおスクリプトはこちらをご覧ください。

1 議論

■主な論点1:多数の関与主体(マルチステイクホルダー)による国際的実証実験の苦労と乗り越え方

〇バングラデシュの農村で、現地の方々の理解を得ながら実証実験のパートナーシップづくりにあたっていく際には、様々な苦労があったが、ダッカ大学をはじめとした現地大学におけるICT活用の地域実証実験の取り組みとの連携、またバングラデシュ全土をくまなくカバーしコミュニティの活動と密接につながっているグラミン銀行の活動との連携が、そこを乗り越えるにあたって、大きな要素になった。
また、様々な規制のカベや、反対の声も当然存在する。しかし、存在する社会課題は更に根深い。従って、着実に理解を得ていく中で、そうした規制や反対の声については、少しずつ、確実に改善していくものであるとも感じる。(例えば、本プロジェクトによるデジタルデータ提出を1つのきっかけに、処方箋で対応できる薬の幅が広がるなど、規制緩和が進んでいる)

〇欧州の事例でも、大学や行政といった中立的で多元的(プルーラル)な組織が、そうしたマルチステイクホルダーからなる基盤づくりの中心に立つことが多い。
日本でも地域の中心的な大学が、そうした企業・地域・行政をつなぐ役割を果たしている事例がある。課題は、そうした活動に予算・財源がつきづらいこと。これは同様の役割を果たすNPOの活動にもあてはまる。
また「持続可能性」を志向する際のプライオリティが、企業と大学等研究機関、非営利組織では、それぞれ異なることがある。従って、互いの異なる特色をどのように相互理解して、ベクトルをあわせていけるかがカギとなる。

〇マルチステイクホルダーの議論の中で、上下関係を作らない「イコールフッティング」の環境を作り出すには工夫を要する。
現在では「デザイン思考」もしくは「チャタムハウスルール」のように、お互いフラットにアイディアを出していく手法がわりと浸透してきているので、これらを活用すること、あるいは、実際の問題解決型プロジェクトをベースにフラットな議論関係を形成していくことなどが、有用と感じる。
ただ、そうしたなかで往々に「分野やバックグラウンドの違いからくる、専門言語の違いや不慣れ」などにより、コミュニケーションが円滑に運ばないことがある。このギャップは、時間や経験を通じて埋めていかざるを得ないが、そのときに、行政や大学、政府系機関、シンクタンク等が、事務局的な機能を果たしつつ、各関係者間のフラットな関係維持を念頭に置いてリードしていくことが肝要だ。

■主な論点2:ソーシャルビジネスにより国際的なイノベーションを起こしていく際の課題

〇ソーシャルビジネスの立ち上げ時においては、往々にして「利益をあげていくことを目指すが、配当は当面出さない(株主への還元は当面行わない)」といったモデルで行かざるを得ないことがある。これをいかに支えていく環境をつくるか、これまでの企業の事業モデルに新たにソーシャル・ビジネスモデルを加えてゆくことが1つの課題と感じる。

〇特に貧困層の人々にとって、収入(おカネ)が手に入るということは、自分にとっても家族にとっても非常に大事であること、しかもそれを都会に出稼ぎに行くことなく自分の地元で成し遂げられること、こうした点は、ソーシャルビジネスを草の根で推進していくにあたって重要な点と感じる。

〇デジタル・ネイティブの世代が世界を変えてきているよう、今の若い世代では、自分の仕事がESGやSDGsに直結することを前提に企業や職業選択を行ったり、起業をしたりという人々が増えてきて、彼らが世界をドライブし始めているように感じる。
「目的があえば個人どうしが自然に結びついていく」彼らが活躍できるような環境づくりに、より積極的に取り組んでいく必要性があるだろう。

■主な論点3:デジタル時代のソーシャルビジネス、およびその資金供給スキーム

〇国際援助において、特に医療関係は各国の規制などに阻まれて、技術があっても展開できない状況などが往々に生じる。
しかし、本日のケースは、社会ニーズを踏まえ、技術先行で村人の健康増進に役立つプロジェクトを立ち上げ、それが医療コスト削減につながっているという、極めて貴重なものだ。更に、日本が主導して世界銀行と共に共同研究を行い、国連やG20などでの大きな動きとした「ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)」の実ケースとしても資するものだ。

〇パイロットプロジェクトから全国展開する際には、様々な課題が生じるだろう。
その時には、政府当局者含めた協力を仰いで遂行することが、ビジネスの為のみならず、国家国民の為にもなりうるだろう。
日本のJICAによる支援スキームも、こうしたときには強い後押しになり得る。「こういうタイプのビジネスで、効率的にバングラデシュの医療を補完できる」という旗印で進めることで、バングラデシュ政府をはじめとした幅広い支援を得やすくなり、またそこで培った経験、即ち、規制の在り方や、ビジネス化への工夫は、バングラデシュ以外の他国の参考にもなり得るだろう。
(特にこのプロジェクトは、低所得者層に直接かつ確実にその恩恵が届き、彼らの所得を向上させ、そこから得られる税収で国家基盤の強化にもつながりうるような、そうしたボトムアップへの工夫がしっかりなされている点が強み)

〇こと、デジタル時代における、マルチステイクホルダーによるビジネスインキュベーションでは、「コミットメント」と「イノベーション」の双方を両立させるための、「共通理解」手法や「共通組織体」の作り方をどうしていけばよいか、そのために必要なコミュニケーションや評価手法は何か、といった問題意識が重要になる。

〇日本は、デジタル時代のソーシャルビジネスを孵化させていくにあたって、アドバンテージがある。それは、①技術要素の開発力に長け、アップグレードを継続的に行っていくことで、競争力を保ちやすいこと ②途上国から、社会課題解決を目指す若者が留学生として集まってきやすく、そのネットワークを活かしたグローカライゼーションに取り組みやすいこと、だ。

〇一方で、日本がデジタル時代のソーシャルビジネスを孵化させていくにあたって、不利な点もある。それは、ソーシャルビジネスに特化した資本を集めやすい環境が整っていないことだ。
ただ、ESG投資、SDGsに対する投資の認知はあがっており、マルチステイクホルダーでのODAの取り組みも進んできている。
そうしたソーシャルベンチャー企業の幅広い取り組みや、そうした企業に対する資金供給の動き、更に低廉なコストでそうした資金供給を可能にするノウハウ蓄積への取り組みなどが、包括的かつオープンな形で可視化できるようになると、イノベーションの動きも横ぐしでつなげられるようになり、更に波を盛り立てていけるようになるだろう。

 

2 日時等:令和2年11月18日(水)14:00-16:30 (ウェブ会議により実施)

3 参加者: 中曽根平和研究所「デジタル技術と経済・金融」研究会 研究委員、および中曽根平和研究所関係者 ほか

▲ ページ上部へ