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研究

研究レポート

2014/12/22

中国経済のマクロ経済分析に関する一考察-海外の国際機関等の分析から考えたこと-

北浦修敏(主任研究員)による報告を掲載しました。
「中国経済のマクロ経済分析に関する一考察-海外の国際機関等の分析から考えたこと-」(PDF)


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(はじめに)
昨年の末から中国の不動産市場の販売が悪化を始め、本年春から生産、消費等の経済指標が弱い動きを示すようになり、最近中国経済について厳しい見方が増えてきている。一方で、過去の30年間にわたる中国経済の高い経済成長を受けて、中国の経済は減速するにしても、持続的に成長するとの見方も根強い。1ドル120円という歴史的な円安の影響もあり、既に中国経済は、市場為替レートで日本経済の2倍近い規模になっているが、さらに、中国の一人当たり所得が購買力平価ベースで先進国の2割から3割にすぎないことを考慮すると、中国経済が先進国と比べてある程度高い成長を続けることは間違いないと見込まれる。とはいえ、中国の東アジアにおける政治的・経済的な台頭や既存の政治・経済システムとの摩擦を考えたとき、中国経済の潜在力に関して一定の見通しを持っておくことは、日本の政治、行政、ビジネスの関係者に重要な示唆を与えると考えられる。


中国経済の潜在成長力に関して、世界のエコノミストの声を拾うと以下のような見解がみられる。経済成長論の第一人者であるMITのダロン・アセモグルは、「国家はなぜ衰退するのか-権力・反映・貧困の起源」(ダロン・アセモグル&ジェイムズ・A・ロビンソン著、早川書房、2013年)の中で、経済発展に対する経済制度と政治制度の双方の重要を強調しつつ、「継続的技術革新(創造的破壊)を伴う経済成長は、長期的には包括的な経済制度≒自由な市場経済の下でしか、持続可能ではない。しかしながら包括的な経済制度は、包括的な政治制度-つまり「法の支配」、そして究極的には自由な言論に支えられた民主政の下でしか持続可能ではない。収奪的な政治制度≒権威主義独裁の下では包括的経済制度は長期にわたって存続できず、早晩、収奪的な経済制度に移行してしまう」との議論を展開し、「中国の場合、遅れの取り戻し、外国の技術の輸入、低価格の工業製品の輸出に基づいた成長のプロセスはしばらく続きそうだ。とはいえ、中国の成長は終わりに近づいているようでもあり、とくに中所得国の生活水準にいったん達したときに終わるとみられる。・・・(中略)・・・中国は包括的な政治制度へ移行するとか、その移行が苦もなく自然に行われるとか期待できる理由はほとんどない」とする。


一方、世界銀行は、「China 2030」(World Bank and DRC, China (2013))の中で「二つの問いがある。中国は、現在のペースから減速したとしても、世界で最も高い成長を達成できるか。また、中国は、世界経済、環境、社会構造に大きな混乱を与えることなく、この高い成長を達成できるか。本レポートの回答はともに肯定的である。2030年までに、中国は、現代的で、調和のとれ、創造的な高所得国家になる潜在力を持っている。しかし、この目標を達成することは簡単ではない。(広範な構造改革が必要である)」とする。


二つの見解は一見大きく分かれるようにみえるが、少なくとも共通しているのは、中国が変わらなければ成長は持続可能ではないということである。本稿を執筆しようと考えた理由は、日本の多くの中国経済の専門家が社会学的なアプローチをしており、現代経済学に基づいた分析となっていないものが多いと感じたからである。特にマクロ経済学の視点からの分析は稀だと感じている。多くの研究は、中国経済という森を木から分析している。それはそれで有益な情報を与えるものではあるが、やはり中国経済を森全体として、マクロ経済分析の視点からみる姿勢は重要と考えている。本稿では、IMFやOECD等のマクロ経済分析を援用しながら、中国経済について若干の考察を行ってみたい 。


冒頭に述べた現在中国経済に関して示されている懸念には3つの側面があると筆者は整理している。
第1に、世界金融危機後の投資の急増に伴い、融資が過度に拡大し、バランスシート面からの調整が必要になっていることである。すなわち一種のデレバレッジが必要となっている。
第2に、成長パターンの限界である。世界経済危機後は、地方政府によるインフラ開発や不動産・建設部門の投資を経済成長の中心に据えたが、これが第1の問題を発生させた。世界金融危機前の中国経済は、輸出産業を梃にして、海外の資源を輸入し、加工商品を輸出する形で高い成長を続けた。しかしながら、中国経済が世界経済の数パーセントの時代は輸出主導の経済成長も順調であったが、急成長の結果、世界経済の15%近い水準にまで拡大し、中国の一人当たりGDPがPPPでみて1万ドル近くにまで上昇すると、資源を乱用し、工業製品と過剰貯蓄の輸出に依存した成長のパターンは世界経済のかく乱要因となりかねない。環境面からも限界がみとめられる。
第3に、第2の論点とも関連するが、中国の所得水準が中所得国の水準に追いついてくるにつれ、労働効率の改善に向けて新たな構造問題に取り組む必要性が生じてきており、また、労働供給面からも中国経済の潜在成長力の減速が指摘されている。


以下、第II節では、IMFの中国経済に関するスタッフレポートを中心に第1と第2の論点について整理をしていく。第III節では、中国の潜在成長力に関する最近の3つの報告を紹介した上で、成長理論には限界があることを指摘する。第Ⅳ節では今後の中国経済についてのまとめと筆者の見方を簡単に示す。

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