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研究

研究レポート

2016/08/09

日本銀行の金融政策にはインフレ期待形成への強い働きかけが欠けている -2%のインフレ、2%のベースアップに関する労使間合意の実現を-

北浦修敏 主任研究員による研究レポートを掲載しました。

日本銀行の金融政策にはインフレ期待形成への強い働きかけが欠けている-2%のインフレ、2%のベースアップに関する労使間合意の実現を-bp352j.pdf

(要約)

 本稿は、日本銀行の金融緩和が2%のインフレ目標の達成につながらない理由とともに、2%のインフレ(とそれの表裏の関係にある3%超のベースアップ)という目標を達成するために必要な手段について、筆者の見解を示すものである。本稿の主な主張は以下の通りである。

 第1に、マイルドな2%のインフレの達成は、安定的なマクロ経済環境を確保する上で、不可欠である。2%のマイルドなインフレは、様々な経済ショックに対して、名目金利の下限の中で実質金利の引下げ(名目金利0%に対して実質金利をマイナス2%に引き下げること)を可能とし、また、名目賃金の下方硬直性の下で実質賃金の引下げを容易とするなど、企業経営の立て直しの手助けをし、もって経済全体の調整を容易にする効果を持っている。

 第2に、現在の日本銀行の金融緩和が2%のインフレ目標の達成につながっていない理由は、(1)インフレ目標の具体的な内容(2%のインフレと3%超のベースアップの達成)が明確に共有されていないこと、(2)過去20年間にわたりデフレ・ゼロインフレが日本経済に根付いていることに加えて、過去の日本においてマイルドな2%のインフレ期待をアンカーする金融政策が採用されたことがないこと(1990年までは賃金上昇に伴うコストアップ型のインフレが行き過ぎないよう配慮することが日本銀行の業務の中心であったこと)、(3)現在の日本銀行の金融政策は、人々の行動を変化させるようなインフレ期待形成への強力な働きかけが不足していること、にある。

 第3に、こうした中で、2%のマイルドなインフレ期待を実現するには、2%のインフレと3%超のベースアップが人々の行動規範となるよう、経営者団体や労働組合の関係者にしっかり認識してもらうことが大切である。その上で、政府及び日本銀行が、インフレ期待が形成されるよう、相当規模のベースアップを、マイルドなインフレとセットでかつ具体的な数値の形で、明確に求めることが必要である。

 第4に、具体的な試みとして、今回の経済対策の実施に併せて、政府・中央銀行が仲介又は参加して、まずは中立的に2%のインフレと(少なくとも)2%のベースアップに向けた経営者団体と労働組合の合意の形成を図ることを提案する。こうした労使間合意の継続を通じて、新たな経営者団体と労働組合の行動規範として2%のインフレと3%超のベースアップの定着を図るのである。

 マイルドなインフレは、時間とコストに余裕があり、また、円安を許容する国際環境があれば、ゆっくりと総需要を喚起しながら実現することが望ましいが、現在の経済環境はそれを許さず、また、金融政策の緩和の余地も狭まっている。少子高齢化が進展する中で、財政政策で持続的に総需要を喚起し続けることも難しい。マイルドなインフレを達成することで全ての経済問題が解決されるわけではないが、まずは、マイルドなインフレを達成し、金融政策の機能を回復しなければ、その後の痛みを伴う労働市場等の構造改革や財政再建は実現できず、日本の長期的な経済見通しは暗い。安倍内閣と黒田日本銀行が、ルーズベルト政権と同様に、大胆なレジームチェインジを行い、デフレ脱却とマイルドなインフレを達成し、金融政策の機能を可能な限り早期に回復して、真の日本経済の再生に向かって歩を進めることを、筆者は切に期待している。

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