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研究

研究レポート

2017/01/06

不確実性を高める中国経済の現状と見通しについて-国際機関の分析や海外のエコノミストの論調を踏まえて-

北浦修敏 主任研究員による研究レポートを掲載しました。

「不確実性を高める中国経済の現状と見通しについて-国際機関の分析や海外のエコノミストの論調を踏まえて-」(bp353j.pdf)

(要約)

本稿は、国際機関等の海外のエコノミストの論調を整理して、2016年の中国経済のファンダメンタルズに関して評価を行うとともに、中長期的な見通しについて論ずるものである。2015年夏の中国株式市場の暴落及び人民元の下落以降、中国経済について不安視する声を高まっている。確かに、中国は様々な構造問題に直面しており、中国経済の成長力は10%の高成長を遂げてきた2000年代に比べて低下しているが、中国の経済規模は世界の15%近くを占め、かつ長期的な潜在力は依然として高い。筆者は中国経済の先行きに関しては、警戒しつつも楽観的である。本稿の主な内容は以下の通りである。

2016年の中国経済を振り返ると、サービス業の高い伸び、公共プロジェクトや減税等の経済刺激策、自動車市場及び住宅市場の好調さに支えられて、6%台後半の高い成長を続けている。また、建設・不動産投資の拡大や老朽生産設備の廃棄・操業短縮等により中国における鉄鋼・石炭等の需給がタイトになり、資源価格が上昇し、卸売物価が4年半ぶりに上昇に転じるとともに、景況感も改善している。ただし、公共プロジェクトや住宅市場に牽引された成長は、既に高水準に達している中国経済の債務依存を一層深刻なものとしており、投資主導から消費主導への成長モデルの移行とそのための構造改革はさほど前進していない。このため、IMF等の国際機関は、債務の伸びや住宅価格の高騰の抑制を図り、民間企業主体・消費主導の経済構造に転換するための構造改革を進め、そのためには成長の減速を受け入れるべきとの政策転換を促している。

筆者は、貿易黒字・対外純資産・外貨準備は世界最大級であること、中国の貯蓄率は国際的に異常なまでに高く、日本経済と同様に、政府がさらに経済を支え続ける余地は大きいこと、経済を支える民間企業には一定の市場の規律が働いていること等から、短期的に中国経済が危機的な状況に陥るとは考えていない。

一方で、以下のような課題に直面し、中国経済が中期的な不確実性が高まっていることは事実である。第1に、過剰債務、不良債権問題が深刻化していることであり、IMFBISは、融資ギャップ(過去のトレンドより過大に伸びている融資のGDP比)が20%から30%となっていることを指摘し、債務に依存した成長の持続可能性に疑問を示している。第2に、国有企業改革、コーポレートガバナンス改革の遅れである。政府の国有企業改革は進んでおらず、短期的に収益性を改善しても市場の競争を抑制しかねない大型合併、さほど強い規律付けにつながらない部分的な上場、マクロ的な効果の期待できない株式・債務交換、企業の人事権の試行的な自由度拡大等にとどまっている。共産党の関与を強める方針も示されており、また、海外の企業や民間企業とのイコールフッティングも掛け声倒れになっている。第3に、金融・資本市場を通じた規律付けが機能せず、経済全体の収益性を低下させている。銀行部門の殆どは国有企業であり、利益相反がみられ、民間企業への融資がクラウディングアウトにさらされているとの報道もある。第4に、経済格差が深刻化している。中国の所得格差や資産格差は国際的にも最悪の大きさとなっており、累進所得税、不動産保有税、相続税の導入、教育・年金・医療を通じた再分配といった、経済の底上げを図り、多くの人々の機会の平等につながる政策の導入が期待される。第5に、人民元の減価と資本流出である。実質実効為替レートでみると、人民元は基本的にファンダメンタルズに即した水準とみて良いが、2015年夏以降、アメリカドルに対しては減価しており、資本流出の懸念が高まっている。人民元の管理を続けることは、外貨準備の減少と資本流出懸念を引きずることにつながりかねず、安易な資本勘定取引の自由化を急ぐことなく、外貨準備の余裕のあるタイミングで変動相場制に移行することが望ましいと考えられる。第6に、住宅価格高騰の問題である。2015年から再び地価・住宅価格が高騰している。一部には住宅バブルの崩壊に伴う景気後退との指摘もあるが、深圳等の一部の地域を除くと、2010年以降の平均所得の伸びとさほどかい離しておらず、地価や住宅価格の上昇を抑制することが重要である。その際、住宅投資の減少に伴い、経済をけん引してきた自動車需要の頭打ちとともに、2017年の経済運営は難しさを増すとみられる。第7に、対外経済摩擦である。最近は、WTOの市場移行国問題、米国との貿易摩擦、中国国有企業の外国企業の買収等に関連して、中国政府の貿易・対外投資政策への批判が高まっている。中国経済は世界経済の1割を超える規模となり、中国企業の行動は世界経済に甚大な影響を与えるようになっており、ゼロセムゲーム的な貿易・対外投資政策ではなく、より調和的な対外経済政策を進めることが期待される。

このように中国が多様な構造問題に直面しており、その結果、中国政府の経済運営が難しさを増し、政策の選択の余地が狭まっているだけでなく、世界経済への波及効果に対する懸念も増している。IMFWEOの示す分析結果では、中国のGDP1%の低下は、世界のGDP0.2%から0.25%低下させるとしている。IMFは、中国経済の中期的なハードランディングの可能性を1割から3割程度としているが、仮に発生した場合には、世界の経済成長を1%程度下振れさせる効果を伴うことになりかねない。国際機関は、中国経済が消費主導の経済モデルにソフトランディングできるようアドバイスを続けるとともに、関係の深い国々は事態の進展を注視して、必要な備えを行うことが肝要である。

一方で、長期的には、中国経済には明るい側面が多く、筆者は2030年までの15年間に少なくとも4%程度の成長は可能であると考えている。中国経済の有利な側面として、①海外に毎年40万人もの留学生を送り出すなど、若く有能な労働力が膨大であり、高い国内貯蓄を活かす余地が大きいこと、②労働者一人当たりのGDPの水準がアメリカの2割程度で伸び代が大きいこと、③経済生産の8割を創出する民間企業や外資系企業はレバレッジが低く、収益性が高いこと、④海外で学んだ研究者に引っ張られる形でイノベーションが次々と起こっていること、を重視している。台湾、韓国の過去の経験を踏まえれば、6%の成長も可能とみられるが、中国は過剰債務の削減の必要性、投資主導から消費主導の成長モデルへの転換の困難さ、国有企業改革の遅れ、中国経済減速の他国経済への影響の大きさ等を踏まえると、中期的に債務問題の調整過程に入ることも見込んで、筆者は少なくとも4%程度の実質経済成長と考えている。


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