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研究

コメンタリー

2018/12/07

「米中首脳会談」と今後の「米中貿易戦争」主任研究員 杣谷晴久

「米中首脳会談」と今後の「米中貿易戦争」

(米中経済研究会コメンタリーNo.1

米中経済研究会

杣谷晴久(主任研究員)

(注)本稿は2018125日現在の情報に基づく

はじめに

 米中通商摩擦は、本年7月6日、米国通商法301条に基づく追加関税発動と中国の報復によって「貿易戦争」に突入。その後初めて米中両首脳が直接会談する12月1日のブエノスアイレスでの会談に全世界の注目が集まった。

 本稿では、同首脳会談について、経緯、結果、今後の注目点等を見る。

1.経緯

(米中「貿易戦争」)

 米中通商摩擦は、本年7月6日の「貿易戦争」突入以降、8月及び9月にも追加関税を発動し合いエスカレート。米国の中国からの輸入額(5,056億ドル、2017年)で見れば約半分に追加関税がかけられる状態。

米国はそのうち2000億ドル分についての追加関税10%を来年初めから25%に引き上げるとしていた。また、中国が譲歩しなければ、さらに、2670億ドル相当の中国からの輸入品に追加関税をかける(合計で中国からの輸入品すべてに追加関税賦課)と加圧。

(膠着状態)

米国は、国家の経済力が軍事力整備に連動するとの考えや、米国から覇権を奪うことをおそらく意味する「中華民族の偉大な復興」を国家目標とする中国の軍事力増強への警戒感等から、対中貿易赤字の2000億ドル[i]削減、中国の産業政策「中国製造2025」の撤回等中国に極めて厳しい要求[ii]。

中国も米国製品購入増、米国が問題視する知的財産(以下「知財」)制度の充実等ある程度の譲歩を米国に示してきたようだが、両国の交渉は膠着状態。

(首脳会談前の状況)

11月1日、トランプ大統領は習主席と電話会談を行い、G20の機会に会談する意向を確認。大統領はツイッターで「長い時間とても良い話し合いができた。貿易問題に重点を置いた」とし、G20での会談に向け議論が「うまく進んでいる」との認識を示した[iii]。

11月16日には、トランプ大統領は、中国から142項目にわたる行動計画を受け取ったと表明。大統領は「よく完成されたリストだ」と一定の評価をしつつも、未解決の課題が4、5項目あり「まだ受け入れられない」と中国に再回答を求めた[iv]。

 

 11月17、18日に開催されたAPEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議(米国はペンス副大統領が代理出席)では、互いに相手の政策を非難・否定するような文言を盛り込もうとした米中の対立から、同首脳会議が始まった1993年以来初めて首脳宣言が出せない事態に陥った。

こうした中、11月30日からブエノスアイレスで開かれたG20の機会での米中首脳会談に対し、両首脳間で何らかのディールがなされるか、交渉決裂で貿易戦争がさらに激化するかと、世界の耳目が集まった。

2.米中首脳会談の結果

(貿易戦争は一時停戦)

 トランプ大統領と習主席は、12月1日のG20首脳会合閉幕後、夕食会形式で会談。その結果、米国側の発表によれば、知財問題等協議の枠組み創設(いわゆる「枠組み合意」)等以下の内容のディールによって、「貿易戦争」の「一時停戦」に合意。トランプ大統領は「首脳同士の素晴らしい取引だ」と例によって自画自賛[v]。

(ディールの内容)

①米国が来年年明けから予定していた2000億ドル相当の中国からの輸入品への追加関税の引上げ(10%→25%)の90日間猶予

②90日の猶予期間中に、ア.米企業への技術移転の強要、イ.知的財産の保護、ハ.非関税障壁、ニ.サイバー攻撃、ホ.サービスと農業の市場開放の5分野を協議し、結論を得る。

③90日以内に合意できなければ、猶予した2000億ドルへの追加関税の引上げを実施

④中国は、対米貿易黒字の削減のため、米国産の農産品、エネルギー、工業製品等を大量に購入。農産品は直ちに購入開始

 この他、トランプ大統領は、習主席が、以前中国が承認しなかった米クアルコムによる(オランダ車載半導体大手)NXPセミコンダクターズ買収計画について、再提出があれば承認するとしたと主張。

また、翌2日、トランプ大統領はツイッターで中国が米国からの輸入車に対する40%の関税(うち25%は米国への報復分。なお、米国の対中の同関税は追加関税含め27.5%)の減免を受け入れた旨表明[vi]。

(「中国製造2025」に触れず)

 他方、以上の米国側が表明した内容に対し、書かれていない重要な事項がある。技術覇権争いに係る対立事項として注目されていた中国の産業政策「中国製造2025」については、今回の両国の声明で何ら言及がない。

トランプ大統領が同政策の撤廃要求をディールの中で取り下げを約束したとは考え難く、今後が注目される。

(中国政府の発表)

中国政府による首脳会談直後の発表では、技術移転の強要等の具体的交渉項目や90日の期限に触れていない。なお、逆に、中国政府の発表では、すべての関税撤廃に向けた対話の加速化を両首脳が指示したとある等両者の発表にずれがある。

また、クアルコムの件や米国からの輸入車の件についても、中国政府からは何ら発表がされていない[vii]。

3.首脳会談結果の考察

(一時停戦の背景)

 首脳会談前には交渉決裂によって貿易戦争が激化するおそれもあったが、一時停戦になったのはなぜだろうか。

まず、中国についてみれば、先般、ある中国関係者が現在の対米方針を「衝突せず、対決せず、新型大国関係を構築」と言っていたが、中国経済の減速も見られる中、習主席はまさに今回この方針で臨み、米国との全面対決を避けたのだろう。

また、トランプ大統領としては、①米国産品の大量購入等を中国が約束する等、現時点のディールとしてある程度満足したこともあろうが、背景として、②米国中間選挙が終わり次の大目標である自身の大統領再選の選挙まで少々時間的余裕がある、③貿易戦争によって農業関係者やいくつかの製造業に悪影響が出始め、米国の株式市場も2018年の上昇分がほとんどなくなった[viii]等から米国が被るダメージに考慮した面もあったのではないか。

製造業への悪影響に関して、11月26日にGMがオハイオ、ミシガンを含む北米5工場の生産停止を発表したが、トランプ大統領にとってこれはショックだったに違いない。

(米国に有利か)

米国は、中国側がディールの前提条件としていた米国による全追加関税の即時撤回の要求を取り下げさせた上で「2000億ドル分の輸入への関税引上げ」や今回触れられていない「中国からの輸入のさらに2670億ドル分にかける追加関税」という「武器」を温存している。これらの圧力をかけ続けながら、90日間の一時停戦下の交渉を行うことになった。

(政治的な合意)

ただ、①具体的な中国の米国製品輸入額や対米貿易黒字削減額が示されていない、②「枠組み合意」[ix]であって知財問題等の解決は先送りされている、③「中国製造2025」に触れていない等からすれば、今回は「実質的な(substantive)合意」というより、「政治的な(political)合意」[x]である。

4.今後の米中「貿易戦争」の展開

(対立の解決は可能か)

知財侵害の問題はトランプ政権で1年以上協議しても解決できていない問題であり(過去の米政権も取組み)、猶予期間の90日間で解決することができるだろうか。

なお、まず日限を切って相手を追い込もうとするのはトランプ流の交渉術のようであり、昨年4月の習主席訪米の際に貿易不均衡是正の「100日計画」策定とされたがうやむやになったことから見ても、今回も90日後に直ちに関税引上げは行わず再度新たな期限が設定される可能性もある[xi]。

これに関しては、先述のようにトランプ大統領が今回の判断の際に考慮したと思われる米国の株価が、今後も下落していくかどうかが米国政府の対応に影響してくるだろう。

また、「中国製造2025」撤廃は今回触れられていないが、米国として覇権争いの観点から死活的重要性を有し、他方、中国にとっては「中華民族の偉大な復興」との国家の大目標のための重要な柱である「製造強国」実現の手段を放棄することを意味するもので、お互い妥協できないと考えられている。

(2重構造の大統領制)

中国の知財侵害を止めさせる点に関して、3日、クドロー国家経済会議(NEC)委員長が中国と合意に近付いていると述べたと報道がある[xii]。

これに関しては、ニューヨーク・タイムズに匿名の政府高官がトランプ大統領の原則なき衝動的決定に抵抗し真に国家のためになる政策を行おうと努力している有志が政権内におり、いわば「2重構造の大統領制」(two-track presidency)になっていると書いた[xiii]ことが想起される。

トランプ大統領が、今回、中国とディールをしたとしても、反中が蔓延している議会共和党・民主党等からの中国に対する懐疑と厳しい攻撃姿勢は変わらず[xiv]、知財を巡る対立は将来にわたって繰り返されるのではないか。

(覆水盆に返らず)

元CIAの中国専門家マイケル・ピルズベリーは、中国の米国からの世界覇権奪取のための「100年マラソン戦略」は、中国戦国時代の「孫子」「戦国策」等から学んで構築されたとする[xv]。その内容[xvi]からすれば、中国は、情勢が悪い(「勢い」がない)と見れば、「韜光養晦」[xvii]に戻って、「勝利(この場合、覇権)獲得まで数10年、それ以上耐える」戦略をとろうとする可能性もある。

 ただ、中国は、2008年リーマンショックで米国が凋落したと思い、アヘン戦争以来の「百年国恥」を晴らす時が来たと思い、既に、米国に「鼎の軽重」を問う[xviii]てしまった。今となっては、「覆水盆に返らず」との見方もある。 

 

おわりに

世界のGDP第1位と第2位の米中の対立が長引けば、米中両国の経済のみならず、貿易関係を通じて、日本を含めた世界全体の経済に与える悪影響も大きくなる。

次の米国大統領選にかけて、さらには米中覇権争いの位相に入っている状況下今後長きにわたって、対立が続くであろう米中「貿易戦争」から目が離せない。まずは、次の節目となる90日後までの猶予期間の両国の動向を注視していく必要がある。

平成30年12月6日



[i] 対中貿易赤字総額は3755億ドル(2017年)

[ii] 日本経済新聞 2018519

[iii] 日本経済新聞 2018112日 

[iv] 日本経済新聞 20181118日 

[v] 日本経済新聞 2018年12月3日 直下の「ディールの内容」の項の①から④及びクアルコムの件も同じ。

[vi] 日本経済新聞 2018年12月4日 なお、中国による米国からの輸入車への40%関税の減免について、中国政府からは何ら表明されていない。また、首脳会談に同席した米高官も本件について明確な確認をしていない(The New York Times "Trump's China Truce Calms Markets, but He Chooses a Hard-Liner to Leads Talks" Dec. 3, 2018)。

[vii] 12月5日になって、中国商務省が出した声明において米国との協議期間が90日間であると明記した。また、米国産自動車の関税下げについては、4日、中国の官製メディアが「具体策が出るのは年末ではないか」との観測記事を配信した。(2018年12月5日 日本経済新聞https://www.nikkei.com/article/DGXMZO38594030V01C18A2FF1000/)

[viii] New York Times "Trade Truce by China and U.S. Gives Bothe Sides Political Breathing Room" (Dec. 2, 2018)は、"The trade war has also started to bite American farmers and some manufactures, while the United States stock market has erased almost all of its 2018 gains amid trade and economic jitters."とする。

[ix] トランプ大統領は、日本やEUとの首脳会談の際にも、自動車関税賦課の圧力の下でバイの協議を創設する「枠組み合意」をしたが、今回は90日という具体的な「期限付き」(「期限付き枠組み合意」)であり、特に中国に対する厳しい姿勢を反映した厳しいものではある。

[x] 脚注8のNYTの記事で使用されている表現

[xi] トランプ大統領は、12月4日、「私はタリフ・マンだ」とツイートした際、中国との協議に関し「延長されない限り90日後に終了する」とした(SankeiBiz 2018年12月5日http://www.sankeibiz.jp/macro/news/181205/mca1812050844008-n1.htm)。これは、期限延期の余地を示唆したともとれる。

[xii] ブルームバーグ、「クドロー氏、対中合意「かなり近い」-知財権侵害と技術移転強要で」2018年12月4日 6:42 JST https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-12-03/PJ6HZM6KLVR601

[xiii] "I am part of the resistance inside the Trump Administration" by a senior official in the Trump administration, NYT Sep. 5, 2018

[xiv] 米中首脳会談の後、トランプ大統領は、今後の米中協議のトップにライトハイザー通商代表を任命(脚注8のNYTの記事)。同氏は対中強硬派で知られ、今後の協議が激しいものになる可能性がある。

[xv] 米中経済研究会レポートNo.8「「中国製造2025」と米中「新冷戦」」p5,6

http://www.iips.org/research/2018/11/19111859.html

[xvi] 「「中国製造2025」と米中「新冷戦」」p6に以下の内容・要素を記載

・敵の自己満足を引き出して警戒態勢をとらせない。

 ・勝利獲得まで数10年、それ以上耐える。

 ・戦略的目的のため敵の考え・技術を盗む。

 ・「勢い」を見失わない。「勢い」とは、敵を動かざるを得なくして勝つ神秘的な力。

 ・他国の包囲や欺罔を警戒する。(「囲碁」の極意)

[xvii] 「とうこうようかい」。1990年代に最高指導者、鄧小平氏が強調した「才能を隠して、内に力を蓄える」という中国の外交・安保の方針(日本経済新聞 2013616日)

[xviii] 広辞苑第6版は「鼎の軽重を問う」を「周の定王の時、楚の荘王が、天下を取った時に運ぶことを考えて、周室伝国の宝器である九鼎の大小・軽重をたずねた故事による)統治者を軽んじ、これに代わって支配者になろうとする野心のあること。・・・」とする。

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