トップ  >  研究  >   "デジタル活用した経済強靭性確保"が挑む、新型コロナウイルスとの戦い 主任研究員 岩田祐一

研究

コメンタリー

2020/03/27

"デジタル活用した経済強靭性確保"が挑む、新型コロナウイルスとの戦い 主任研究員 岩田祐一

"デジタル活用した経済強靭性確保"が挑む、新型コロナウイルスとの戦い

(「情報通信技術(ICT)と国際的問題」研究会コメンタリーNo.7)

主任研究員 岩田祐一

(2020年3月27日09:30時点の情報に基づく)

 

■新型コロナウイルスと移動制限、そしてキャッシュインフロー制約

 

 新型コロナウイルス(2019nCoV)の世界的拡大によって、世界経済の減速傾向がクリアになりつつある。世界的投資会社であるBlackrock社が運営する「Macro dashboard」には、世界主要国の経済に関する「成長率」「財務状況」「インフレ」「貿易」の4つの項目があるが、「インフレ」を除く3つは既にいずれも2018年以降、もしくは直近において、右肩下がりのグラフとなっている。 [1]。

 

 この拡大を防止するために、国内および国境での移動制限もまた拡大している。IATA(国際航空運送協会)では、各国の入国制限に関連する情報を可能な限りアップデイトしているが、これによれば、3月27日現在で、172の国・地域で、入国制限等が実施されている。[2]

 移動の自由が制限されることにより、工場生産の一時停止はもとより、奢侈的サービスや奢侈品などの消費も減速している。これは統計上、生産性の低下につながるものだ。つまり、移動制限と経済減速は、循環を成しているといえる。

 

 企業にとっては、こうした収入減にコスト削減で対応しようとしても、固定費は一定程度以上の削減が困難であり(いわゆる損益分岐点)、これを下回る収入状況が継続的に続くとなると、キャッシュフローの面から、企業の事業継続が困難なケースが出てきうる。

 もしこのような状況が広がるならば、こうした企業に貸し付けを行っている金融機関の負担も増し、そのバランスシートは悪化するであろう。またここにおいては、企業間の取引関係等の相関性に深く注意を払っておくことも必要だ。[3]

 

 

■デジタルを活用した、新型コロナウイルスへの経済的強靭性確保

 

 一方で企業がこの機に、いわゆる在宅勤務(Telecommuting)を拡大させていることは、デジタルを駆使した生産性向上への大きな一歩となり得る。

 しかしこうした在宅勤務を分析調査するGlobal Workplace Analyticsによれば、2016年American Community Survey(ACS:300万世帯を対象とした米国センサス局による標本調査)のデータに基づいてとりまとめた、在宅勤務者全体に占める産業別属性は、専門・科学・技術サービス職の12%を筆頭に、情報が10%、金融・保険の9%、不動産が8%と、サービス産業に寄っており、目下の新型コロナウイルスによる在宅勤務奨励の拡がりにおいても、製造業の生産性向上における即自的な効用は期待できない。[4]

 他方、OECDの調査によれば、製造業に比べて非製造業の方が、生産性はより低位にとどまっているとのことである [5]。従って、これを機に、非製造業において在宅勤務をより上手に使いこなすことが出来ていくならば、非製造業の生産性向上をリードし、かつ経済全体の生産性向上に結び付いていく可能性がある。このためには技術面(基盤・アプリケーション)、スキル面、文化面での配意が必要である。[6]

 

 また、緊急時に緩和するルールは、平時におけるその必要性水準を改めて検証するきっかけともなる。

 特に世界各国で折々に生じている買占め等には、在庫管理・在庫予測による対応が重要である。通常時には、在庫を最小限に抑えるためのタイトな管理や、マーケティング等を通じた意図的な購買奨励(誘導)を行っているケースでも、こうした非常時には、これらを緩めて考える必要がある。

 CFO(最高財務責任者)向けのメディアでは、CFOのみならず一般論としても通用する検討視点として4点を挙げている:①「私たちが何を知っているのか?それを誰がよく知っているのか?」把握・共有する ②編成した予算のロックを解除する ③課題対処に使える操作手段(レバー)を学ぶ ④財務的なステイクホルダーと会話する。[7]

 

 

■新型コロナウイルス拡大に際しての経済安全保障、金融安全保障

 

 こうした平時を見直し、非常時における新たな取り組みについては、長期的に見た経済強靭性を高めるものになるであろう。そうしたなかやはり、冒頭でも述べたように「経済の血流が不用意に止まってしまう」リスクへの注視は、とりわけこのような非常時において、不断に必要なことである。

 

 世界的な課題となるのは、サプライチェーンの継続である。一種の過剰需要が剥がれたのちに、日常的に必要な財について、安定した生産を継続できるか。

 一国に経済が閉じていた第二次世界大戦までは、一種の戦時統制経済において、そうした需給のバランスを志向した生産体制を政策的に維持することが出来たかもしれないが、サプライチェーンがグローバルに広がる今、これをどう担保すべきか。この問題は一種の経済安全保障ともいえる。

 

 またこのサプライチェーンを支えるためには、生産企業が安定的な資金流動性を確保することが大切である。欧米日では、金融機関に対して、バランスシート規制を一時的に和らげることなどによって、金融機関が安心して生産財企業に資金供給を続けられるような施策を継続検討している [8]。これは一種の金融安全保障ともいえる。

 特にこうした流動性危機は、GDP(国内総生産)に対する民間(非金融)企業債務の割合が高い地域・産業において相対的に高い可能性がある。新型コロナウイルスの拡がりに伴うGDPの落込みが企業債務の返済可能性に響く感応度が高いと考えられるからである。国際金融研究所(IIF)の今年1月レポートによれば、中国は香港に次いで、この割合が高い位置にある。[9]

 経済の血流リスクは、新型コロナウイルス以上に、各国に伝播しやすいかもしれない。今後も各国の経済金融状況に関する注視が引き続き必要である。

 

 

[1]詳細は以下Blacklock社サイトを参照(https://www.blackrock.com/corporate/insights/blackrock-investment-institute/interactive-charts/macro-dashboard)3/23閲覧

[2]詳細は以下IATAサイトを参照(https://www.iatatravelcentre.com/international-travel-document-news/1580226297.htm)3/27閲覧

[3]例えば、世界的格付機関の1つで英国に本拠を置くフィッチ・レーティングス社の、金融セクターに関する評価レポートを参照(https://www.fitchratings.com/site/pr/10114289) 3/24閲覧

[4]詳細は以下Global Workplace Analyticsのサイトを参照(https://globalworkplaceanalytics.com/telecommuting-statistics)3/24閲覧

[5]詳細は以下OECDレポートを参照(http://www.oecd.org/officialdocuments/publicdisplaydocumentpdf/?cote=ECO/WKP(2018)79&docLanguage=En) 3/24閲覧

[6]比較的わかりやすい詳細は例えば、ITメディアであるZDNetによる以下レポートを参照(https://www.zdnet.com/article/effective-strategies-and-tools-for-remote-work-during-coronavirus/)  3/24閲覧

[7]詳細は以下CFO.comサイトを参照(https://www.cfo.com/budgeting/2020/03/the-cfos-response-to-coronavirus-uncertainty/)3/24閲覧

[8]これらの概括的な動きについては、バーゼル銀行監督委員会のプレスリリースを参照(https://www.bis.org/press/p200320.htm)  3/24閲覧

[9]詳細は以下IIFレポート(page6)を参照(https://www.iif.com/Portals/0/Files/content/Global%20Debt%20Monitor_January2020_vf.pdf)3/24閲覧

▲ ページ上部へ