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研究

コメンタリー

2020/09/28

米国政府が世界に放った「The Clean Network」プログラムの狙いとは 主任研究員 岩田祐一

米国政府が世界に放った「The Clean Network」プログラムの狙いとは

(「デジタル技術と経済・金融」研究会コメンタリーNo.1)

 

主任研究員 岩田祐一

(2020年9月25日16:30時点の情報に基づく)

 

■「クリーン」という言葉とは裏腹の、激しい報道

 ポンペオ国務長官の8月5日の記者会見、この場で、「The Clean Network(以下、クリーンネットワーク)」プログラムが打ち出された [1]。

しかし「クリーン」という言葉とは裏腹に、各メディアはこの動きを激しいコトバで報じている。例えば、中国のGlobal Times(環球時報)は2日、"Pompeo's so-called 'clean' 5G vendor list stinks of McCarthyism"(ポンペオのいわゆる「クリーン」5Gベンダーリストはマッカーシーズム(赤狩り)の悪臭を放つ)という見出しで報じ[2]、また米国のIT系サイトZDnetは6日"Washington aims Clean Network program directly at stopping China and Huawei -Mike Pompeo labels Huawei as a human rights abuser due to claim it is an extension of the Chinese state-"(ワシントンは、中国とファーウェイをダイレクトに止める「クリーンネットワークプログラム」を目指す -マイク・ポンペオは、中国国家の延長として、ファーウェイを人権侵害者とレッテルを張る-)という見出しを掲げた。[3]

なぜこうした激しい報道になるのか? それは「クリーンネットワーク」プログラムの内容にある。

 

■「クリーンネットワーク」プログラム=「通信事業における信頼性」+「通信の安全保障の在り方」

「クリーンネットワーク」プログラムの内容は、6つからなる[4]。うち1つの「Clean Path」(クリーンな端末から端末までの通信路)は、遡ること約3か月前の4月29日に、ポンペオ国務長官が記者会見で触れたものだ。「国内外の米国外交施設に出入りする5G(携帯第五世代)データは、信頼できる機器を介してのみ通過しなければならない」、これが元になっている。

残る5つは、8月5日に新たに発表されたものではあるが、伏線は存在した。6月下旬のポンペオ国務長官およびクラック国務次官の会見では「Trusted 5G Vendors」(信頼できる5G機器ベンダー)そして「Clean Telcos」(クリーンな通信会社)という言葉が出ている。これらが、「Clean Carrier」(クリーンな通信事業者)、「Clean Apps」(クリーンなアプリ)、「Clean Store」(クリーンなアプリストア)、「Clean Cloud」(クリーンなクラウドサービス)、そして「Clean Cable」(クリーンな海底ケーブル)に繋がっていっている。

こうした考えの大元として重要なのは、今からおよそ1年前、2019年8月28日に、ストレイヤー次官補代理が外国人記者に対してブリーフィングした内容だ。「5G技術に関する米国の政策」と銘打った内容の要点は、以下の4つに要約される。[5]
①世界中のすべての国に、5G技術を確保するために実施すべき安全保障慣行について慎重に考えてほしい。(あらゆる種類の情報または通信技術に対して、リスクベースの安全保障アプローチ採用を奨励)
②5Gに関しては、重要なサービスを提供するベンダーのサプライチェーンを見ていくことが重要。(技術ベンダーがハードウェア・ソフトウェアの両方を提供する特権を持つ中で、消費者や政府にどういった動作・影響を与えるか、プライバシー・知的財産・インフラ運営といった観点から注視すべき)
5G技術に対するベンダーへの信頼を得ることが非常に重要。(非常に懸念している1つの指標は、ベンダーが適切な司法管理なしに外国政府の管理下にいるようなことがないこと)
④5Gサービスに関連する企業が十分に理解され、腐敗に関連する西洋の法律、輸出管理および知的財産の盗難に関連する法律に準拠する透明な所有権構造を持つべき。
なお、これらは偶然ではあるが、ストレイヤー氏のブリーフィングから遡ること9カ月前、ファーウェイ社のCFOが逮捕された直後の2018年12月の、弊所コメンタリー「中国・華為技術(ファーウェイ)の激震を読み解く」[6] の末尾で、「原点認識の必要性として重要視すべき」と掲げた2点:「通信事業における信頼性」そして「通信の安全保障の在り方」と、合致している。

このストレイヤー氏のブリーフィングがベースとなり、今年3月、「安全な5Gに関する国家戦略」が発刊され[7]、8月の「クリーンネットワーク」プログラムへとつながった。

 

■「クリーンな通信事業者」世界的選定の今後の焦点

こう見てくると、本来は「通信の信頼性、通信の安全保障をめぐる見解」であるべきところ、冒頭の激しい報道になるのは、違和感があるところだ。ただここの問題は「通信事業に関連する民間企業が、その国の政府管理下にあるとみなされるが故に、プライバシー・知的財産・インフラ運営といった面で、消費者や他国の政府に、悪影響を及ぼしうる」という懸念に対する見方やアピール、コミットメントの差異なのだろう。

コミットメント、という意味では、この「クリーンネットワーク」プログラムで、米国政府は巧妙な手法を取っている。それは、各国政府および通信事業者に「Clean Carrier」に選定されるよう、働きかけていることだ。この選定通信事業者一覧は、「クリーンネットワーク」プログラムのサイトに掲げられ、常時アップデートされている。[4]

本記事執筆時点では、米国・カナダ・日本・韓国・台湾・豪州の主要事業者のほぼ全て、そして欧州の大半の主要事業者(スペイン・フランス・ドイツ・北欧・ポーランド等)が選定・掲載されている。今後の焦点は、特に多国間で事業を営む大手事業者だ。英国の2大大手(British Telecom、Vodafone)、中米・インド・中近東の大手の殆どは、まだ掲載されていない。これらが今後、どういう方向性をとってくるかが、「クリーンネットワーク」の今後の方向性を占ううえで、要注目だ。

 

■「TikTok」そして「WeChat」 ~アプリケーション・クラウドサービス・海底ケーブルへの今後の影響~

 「Clean Apps」「Clean Store」「Clean Cloud」も、本質は同じだ。8月上旬にトランプ大統領による行政命令が出され、9月20日以降、米国内でアプリ配信禁止の方向となった「TikTok」「WeChat」[8]についても、結局は「信頼性、安全保障へのコミットメント」が鍵になるのだろう。特に中国の「国家情報法」が、米国政府などの懸念に抵触しないものであることをより明快に言い切ることができるならば、事態は大いに変わりうるのではないか[9]。

ここに関連し、中国政府は、王毅外相が「Global Initiative on Data Security」と名付けたカウンターアクションを9月8日に繰り出した[10]が、上述ストレイヤー次官補代理のブリーフィング内容に対応して捉えると、①(=主に通信の安全保障)については明快に触れているが、②③④(=主に通信事業の信頼性)については部分的な触れ方に留まるように見える。特に、データセキュリティと関連の深いはずの、知的財産に関する直接的言及がないのが特徴的だ。

なお残る「Clean Cable」について。世界的な海底ケーブル網は、インターネット・クラウドサービスの発展と共に、米国を発着点の中心に、容量が増強されている。概ねその世界各国の拠点(陸揚局)は、経済、とりわけ国際金融の拠点に近い海岸沿いとなっている。中国大陸の場合は、伝統的に香港[11]、次いで上海近辺が国際海底ケーブルの拠点だ。香港をめぐる一連の動きは、そうした「国際情報覇権」とも密接に関連している可能性があることに、注意を払うべきだろう [12]。

 

[1]写真は米国務省サイトより引用(https://www.state.gov/the-clean-network/)9/25閲覧

[2]詳細は以下Global Timesサイト参照(https://www.globaltimes.cn/content/1196451.shtml)9/4閲覧

[3]詳細は以下ZDnetサイトを参照(https://www.zdnet.com/article/washington-aims-clean-network-program-directly-at-stopping-china-and-huawei/)9/4閲覧

[4]詳細は以下米国務省サイトを参照(https://www.state.gov/the-clean-network/)9/11閲覧

[5]詳細は以下米国務省サイトを参照(https://www.state.gov/US-Policy-On-5g-Technology)9/4閲覧

[6]詳細は以下弊所サイトを参照(http://www.iips.org/research/2018/12/10162351.html

[7]詳細は以下米大統領府サイトを参照(https://www.whitehouse.gov/wp-content/uploads/2020/03/National-Strategy-5G-Final.pdf)9/4閲覧

[8]詳細は以下米大統領府サイトを参照(https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/executive-order-addressing-threat-posed-tiktok/ および https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/executive-order-addressing-threat-posed-wechat/)9/11閲覧

[9]例えば、2019年2月19日の中国外交部定例記者会見では、この話題が質疑テーマとなっている。以下人民日報(人民網日本語版)サイトを参照。(http://j.people.com.cn/n3/2019/0220/c94474-9548118.html)  9/4閲覧

[10]詳細は以下在米中国大使館サイトを参照(http://www.china-embassy.org/eng/zgyw/t1812951.htm)9/11閲覧

[11]電信(Telegraph)中心の時代から、世界の海底ケーブル・国際通信界を長年にわたってリードしてきた、英国Cable & Wireless(C&W)グループの中核企業の1社は、香港テレコムであった。(2000年に香港資本のPCCW(Pacific Century Cyber Works)グループが買収。C&Wの国際事業自体は2012年に英国Vodafoneが買収)

[12]直近では、Facebook、Googleと香港PLDC社(親会社は中国でブロードバンド事業・データセンター事業等を営むDr. Peng Group社)が計画していた、米国とアジアを結ぶ最新鋭海底ケーブルにつき、米国政府からの今夏の要請(https://www.justice.gov/opa/pr/team-telecom-recommends-fcc-deny-pacific-light-cable-network-system-s-hong-kong-undersea, およびhttps://www.fcc.gov/document/letter-pacific-light-data-communication-co-ltd-pldc)に基づき、香港への陸揚げルート稼働を断念したとの報道あり(https://japan.zdnet.com/article/35159028/) いずれも9/11閲覧

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